高校のときのクラスで、いじめられてる訳じゃないけど、いじられてるAという奴がいた。
なんというか、よく問題を当てられても答えられなくて、笑われるような感じ。
でも本人はへらへら笑ってて、特に暗くも無いし、鈍感という言葉が当てはまる奴だった。
ちなみにAは、喋るとき少しドモり気味で、それも笑いのネタにされていた。

夏休み前、遊びと称して心霊スポットへ連れて行って脅かしてやろうという、
工房丸出しの幼稚な考えを思いついた俺達グループは、そいつに声をかけた。
二つ返事で承諾したA。場所は現地でも有名なダムで、その周辺の探検という事に決まった。

そして当日。
真夏の夜、Aを含め5人はいたものの、場所が場所だけにやっぱりひんやりとして、ちょっと不安になった。
それでも、ここまで来たなら行こうという事で、膝の辺りまで茂った草、湿って不安定な地面を進んでいく。
もちろん先頭はA。
ある一定の所まできたら、4人そろって隠れてやろうという事になっていた。
(バカ高校の生徒の頭で考える作戦はこれが限界)

10分くらい彷徨ったとき、廃屋というか、小屋みたいなものを見つけた。
それを見つけて、ここがタイミングだなと隠れようとしたとき、小屋の入り口付近に白い女が。
もう本当に、イラストとかで見る『髪の長い白いワンピースの女』がいた。

どう考えてもこんな時間にそんな女がいるのはおかしいから、そいつがこの世のものではないのが一瞬でわかった。
誰かが「逃げろ!」と叫んだ。俺も走り出そうとした。
ところが、Aが逃げない。
「おい、A!後ろ見てみ!早よ逃げるぞ!」と言っても、きょとんとした顔でAは、
「ん、んー?なんか、お、おるんかー?」(ドモってるからこんな感じ)
どうやら彼だけ『見えて』ないらしく、きょろきょろしてそこから動こうとしない。
置いていくわけにも行かず、逃げるに逃げれなくなった俺達。
女が滑るように近付いてくる。
Aの方向をこれ以上ない恐ろしい笑顔で見ていた。
こいつを連れて行こう、みたいな、こいつなら気付かずに、みたいな・・・
やばい・・・とは思うものの何も出来ない。
とうとう女がAの隣りまで来た。
「なあんてな。コイツやろ?」
「え?」

唐突に、いつもの口調と違うAは、女をはにかんだ笑顔で指差した。
Aは女の顔に自分の顔を近づけ、面と向かって言い出した。
「おい、コラ。こんなトコで彷徨う事しか出来んのかお前は。
 いい加減死んだ事に気付け。このアマ」
ワンピースの女は、もう笑っていなかった。
明らかに動揺した顔を2、3秒浮かべた後、ふっと消えた。
Aは最後に、「そのほうがいい」と呟いた。その途端、雨が降りはじめた。
Aは唖然としていた俺達に向かって、「ん?行こ、行こ」と、いつもの口調に戻っていた。

俺達はAと本当の友達になった。

後に、Aにあの時の事を聞いた。
「んー、ん。あれはな。でき、できんねん。なんかな」
としか言わなかった。